絶対解析・岡本栄一郎の公私混同解析

#3 父と、シンザンと

父は競馬の愛好家であった。
勿論、ギャンブル依存症というのではなくて、極めて健全な、競馬好きであった。
研究熱心で、ノートに記録もつけていたような人だった。
私が競馬の道に入ったのも、父の薫陶(?)のおかげである。

私がどうにも羨ましくて仕方なかったのは、父が現役時代のシンザンを府中・東京競馬場のパドックで直に見た、と話していたことである。
当時20代の父も、胸躍らせながら、シンザンのパドックを見つめていたことだろう。
やはりシンザンは、パドックでもひときわオーラを放っていたらしい。

否。オーラなどという、そんな柔らかいヴェールのようなものではなくて、『凄み』を帯びていた、といった方が至当であろう。

なにせ、名伯楽・武田文吾師に『ナタの切れ味』と言わしめた馬である。
カミソリと違う。ナタである。
その競馬ぶりは、まさに、『肉を切らせて、骨を断つ』ものであっただろう。

私もシンザンの歩様をパドックで見てみたかった。
シンザンの放つ『凄み』を、肌で感じてみたかった。

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最近、競馬がスマートになりすぎて、『凄み』のある馬が見当たらない。
ディープインパクト、オルフェーヴルというのでも、足りない。
彼等は、シュッと、スマートすぎる。
彼等はいかにも『名馬』かもしれないが、『凄み』が足りないのである。

そんな中、あらわれたキタサンブラックは、シンザンにやや近かったかもしれない。
キタサンブラックも、とても端正な顔、綺麗な顔をしていて、スマートな馬ではあるのだが、なにより馬格が大きいので、『ナタの切れ味』というのに、近いかもしれない。

そして、なんと言っても、その競馬ぶりだ。

秋の天皇賞の、あの泥んこ馬場での、すごい勝ち方。
そして、ジャパンカップで負けておいて、あの有馬記念で見せた、圧巻の走り。
『肉を切らせて、骨を断つ』シンザンの競馬ぶりに、通じるものがあったのではないだろうか。

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淀・京都競馬場の入場門近くに、シンザンの像と、シンザン鉄が、飾られている。
―――今年は、どんな馬が、あらわれるのかな?
競馬場に来て、その前を通るたびに、心躍るのである。